今回のテーマは『ジョブ・クラフティング(Job Crafting)』です。
『ジョブ・クラフティング(Job Crafting)』とは、個人が自分の仕事に対して主体的に働きかけ、やりがいや満足感を高めるために”仕事の内容や方法を調整する行動”を指します。
「ジョブ・クラフティング」を導入することで、
- 言われた作業しかしない人が、率先して言われたこと以上の仕事をするようになる。
- コミュニケーション不足の人が、積極的にコミュニケーションを取るようになり、人間関係が円滑になる。
- 仕事に無関心だった人が、やりがいを見つけ成長し、会社に必要な戦力になる。etc..
このような効果が期待できます。
今回は、個人が主体的に仕事のやりがいや満足度を高める手法である「ジョブ・クラフティング」の中で、3つの主要なタイプである、
- 「作業クラフティング」
- 「人間関係クラフティング」
- 「認知クラフティング」
これらの特徴、方法、具体例を詳しく説明します。
3つのジョブ・クラフティング
1. 作業クラフティング(Task Crafting)
特 徴
仕事における達成感や効率性を向上させるべく、仕事そのものの内容や手順を変更し、自分の能力や興味、価値観に合った形にカスタマイズすることです。特に「ルーティンワークが多い」と感じる場合に有効でしょう。
方 法
- 現在のタスクの洗い出し
- すべてのタスクを書き出し、好きなもの・嫌いなものを分類。
- 追加・削除の提案
- 自分が得意または興味を持っている分野のタスクを増やす。嫌いなタスクは他の人と交代できないかを交渉。
- 業務の効率化を計画
- どのタスクを自動化・簡略化できるかを考える。仕事の範囲を広げる、または狭める、新しいタスクを追加する、または不要なタスクを減らす等の工夫をおこなう。
具体例
- 企画職の場合
- 自分が興味を持っている分野のリサーチ業務を積極的に取り入れる。たとえば、新製品の提案資料作成の際に、最新のマーケティング手法を調査する仕事を自主的に追加する。
- 販売職の場合
- お客様への説明資料を自分でカスタマイズし、より分かりやすい形に改良する。
- 工場勤務の場合
- 同じ作業を繰り返すだけではなく、効率化のための新しい作業手順を提案する。
- ITエンジニアの場合
- マニュアルでの作業が多い場合、自動化スクリプトを作成する時間を提案し、作業効率を上げると同時に自分のスキルを活かす。
- 教育者の場合
- 一律の授業を行う代わりに、生徒個々の特性に応じた教材を準備し、自分の創意工夫を反映させる。
- 物流スタッフの場合
- 単純なピッキング作業に留まらず、業務の動線を改善する提案を行い、効率アップを図る。
期待できる効果
- 自分の「得意」を発揮できるため、達成感が得られる。
- 単調さが減り、新しい挑戦が可能になる。
2. 人間関係クラフティング(Relational Crafting)
特 徴
職場や取引先での人間関係を自ら調整し、ポジティブな交流を増やしたり、不要な摩擦を避けたりすることで、仕事の満足度やストレスを管理する方法です。
方 法
- 現在の人間関係を分析:
- 協力しやすい人、学べる人、距離を置きたい人をリストアップ。
- 目標の設定:
- 信頼関係を築きたい人や改善したい関係を具体的に決める。
- アクション計画:
- 小さな会話やランチへの誘いから始め、関係構築を進める。
具体例
- プロジェクトチームの場合:
- 自分が尊敬する同僚と仕事をする機会を増やすため、チーム内で役割分担を提案する。
- 営業職の場合:
- 難しい取引先との連絡頻度を調整し、ストレスを軽減する一方で、気軽に相談できる社内メンターを見つける。
- 工場勤務の場合:
- 休憩時間に他の部署のメンバーと交流し、情報共有の幅を広げる。
- 管理職の場合:
- 部下との1対1のミーティングを増やし、仕事の悩みや目標を共有する機会を設ける。
- 新入社員の場合:
- 毎日少なくとも1人の同僚と積極的に会話し、交流を深める。たとえば、ランチに誘うなど。
- デザイナーの場合:
- クライアントやプロジェクトマネージャーと定期的にアイデアを共有し、信頼を築く。
期待できる効果
- チーム内でのサポートが増え、効率的に働ける環境が整う。
- 職場での孤独感やストレスが減少する。
- 同僚や上司との関係が改善されることで、チームのパフォーマンスが向上する。
3. 認知クラフティング(Cognitive Crafting)
特 徴
自分の仕事の意味や価値に対する捉え方を変えることで、モチベーションを高める方法です。仕事自体の内容は変えずに、精神的な枠組みを再構築していきます。
方 法
- 仕事の意義を考える:
- 自分の業務が誰にどう役立っているかを深く考える。
- 成功事例を振り返る:
- 過去に自分の仕事がポジティブな影響を与えた事例を思い出す。
- ポジティブな側面を意識:
- つらい部分ではなく、楽しい・有意義な部分にフォーカスする。
具体例
- 事務職の場合:
- 毎日のデータ入力作業を「チームが円滑に動くための土台を作っている重要な役割」と捉える。
- 接客業の場合:
- 単純な会計作業を「お客様が快適な体験をするための重要なサポート」と見なす。
- 看護師の場合:
- 夜勤中の見回りを「患者さんの命や安心を守る重要な時間」として意識する。
- 医療職の場合:
- 「単なる注射業務」と考えるのではなく、「患者さんの健康を守るための一歩」と再解釈する。
- 清掃スタッフの場合:
- 「場所をきれいにする作業」ではなく、「利用者が快適に過ごせる環境を提供する」と意識する。
- エンジニアの場合:
- 不具合対応の仕事を「製品の信頼性を向上させ、ユーザー満足度を高める機会」と捉える。
期待できる効果
- 単調な仕事でもやりがいを見出せるようになる。
- 自分の仕事が社会や組織にどう貢献しているかを実感できる。
ジョブ・クラフティングの導入方法
「この仕事は自分に合わない」。そう考える若者は多いです。しかし、実際に自分に合う仕事などほぼ見つかりません。
「好きなことを仕事にしたい」。そう考える人も多いですが、好きなことを仕事にできる人はごく僅かです。
しかも「好きなことを仕事にしたことで、それが嫌いになった。」という人も存在します。なぜなら、好きなこと以外のことも経験しなければならないからです。
それよりも「目の前にある仕事をいかに好きになるか?」「どのようにすれば満足度を上げられるか?」等を追求したほうが遥かに有意義です。
「ジョブ・クラフティング」を従業員に意識させましょう。以下に導入方法のヒントを提示します。
1. 若手社員の現状を把握する
若手社員の、仕事に対する現在の不満や課題を正確に理解し、ジョブ・クラフティングの導入に向けた基盤を整えます。
- 「どんな作業にストレスを感じているか?」
- 「仕事で楽しいと感じる部分は?」
- 「得意だと感じる分野は?」
などを、具体的にヒアリングします。匿名アンケートの活用し、職場環境や業務内容について意見を募り、本音を引き出したり、若手社員に現状のタスクや役割をリストアップしてもらい、「好きなタスク」「苦手なタスク」を分類してもらったりしましょう。
2. ジョブ・クラフティングの考え方を理解してもらう
仕事の「変えられない部分」に縛られる意識を解きほぐし、「変えられる部分」に焦点を当てるよう促します。
- ワークショップを開催
- ジョブ・クラフティングの基本概念や成功事例を共有し、ポジティブなイメージを植え付けます。例えばケーススタディを用い、他の若手社員がどのように業務を改善したかを示すことも有効です。
- 成功体験を共有する場を作る
- モチベーションを取り戻した社員や先輩社員の具体例を紹介し、実践のイメージを持たせましょう。
3. 小さな変更から始めさせる
大きな変化ではなく、小さな改善を通じて「仕事を自分で変えられる」という成功体験を積ませていきましょう。
- 短期的な目標を設定
- 例: 「次の1か月で、自分の得意な部分を活かしたタスクを1つ増やす」
- プロジェクトの一部を任せる
- 若手社員の興味に合わせた特定の業務を部分的に担当させる。
- 例: プレゼン資料のデザインが好きな社員に、資料作成を任せる。
- 職務の選択肢を提示する
- 「AのタスクとBのタスクのどちらを担当したい?」
- 「もっと得意な分野で活躍したいと思ったら相談してね」など。
4. 人間関係クラフティングを支援する
職場での孤独感やストレスを減らし、モチベーションを高めるための関係構築をサポートしていきます。
- メンター制度の導入
- 信頼できる先輩社員と若手社員をペアリングし、悩みを相談できる関係を作る。
- チーム内での交流を促進
- チームビルディングのイベントを開催する。
- ランチミーティングを設定し、カジュアルな会話を増やす。
- ポジティブなフィードバックを意識する
- 若手社員の些細な成果も見逃さず、適切に評価し、職場での存在意義を感じさせる。
5. 認知クラフティングを促進する
自分の仕事に対する価値や意義を再発見し、やりがいを感じられるように持っていきましょう。
- ミッションやビジョンを共有する:
- 例: 「この作業は最終的にこういう形でお客様に役立つんだよ」と仕事の目的や影響を具体的に伝える。
- 成果を見える化する:
- 「あなたのこのアイデアが採用されて、売上が○%伸びました!」
- 「この仕事がチーム全体の効率化に役立っています」といったデータや成果を可視化して共有。
- 自己評価の機会を作る: 若手社員自身に「どんなスキルが伸びたか」「仕事を通じて成長したと感じたこと」を記録・発表してもらう。
6. 定期的なフォローアップを行う
進捗を確認し、必要に応じてサポートを提供します。
- 1on1ミーティング
- ジョブ・クラフティングを進める中での変化や課題を確認し、アドバイスを行う。
- 目標達成を祝う場を設ける
- 小さな成功でも職場全体で共有し、モチベーションアップにつなげる。
- 新たな機会を提案する
- 若手社員が興味を持ち始めた分野に対して、さらなる挑戦の場を与える。
ジョブ・クラフティングを成功させるために
ジョブ・クラフティングは、「自分で環境を変える力」を養う実践的な手法です。
職場での小さな工夫や挑戦から始められる手法であり、一歩ずつ試すことで、若手社員が、仕事がより充実したものとして認識するだけでなく、会社にも好影響を与えてくれます。
若手社員にジョブ・クラフティングを取り入れてもらうには、「理解」「小さな成功」「継続的な支援」がカギです。彼らが主体的に動き出せるよう、少しずつ選択肢や可能性を広げ、成功体験を積ませることで、モチベーションを高めることができます。
また、ジョブ・クラフティングを人事考課(評価制度)に組み込み、昇給や昇格に反映させることも必要です。社員がジョブ・クラフティングを実践した成果を適切に評価する仕組みを構築する必要があるでしょう。
是非、来月から・・でもなく、来週から・・でもなく、
今日からジョブ・クラフティングを導入してください!