同じ新入社員でも、何年も続く人もいれば、一方で1年も経たずに辞めてしまう人もいる。
別に一方が優秀で素質がある人材で、もう一方がダメな人材であったわけでもない。
一方が仕事が自分に合い、もう一方が仕事が自分い合わないという問題でもない。ましてや賃金や休みに優劣があったわけでもない。
続く新入社員と、続かない新入社員、一体その違いとは何なのか?
辞める仕組みにハマるとは?
先日、新入社員の1人が突然「辞めたい」と言ってきた。
私は別に驚くこともなかった。むしろ「いつそう言ってくるか」と心配していたほどだ。それが今、現実になっただけのこと。
なぜなら、必ず辞める仕組みにハマってしまったからだ。
経営者が「なぜ辞めるのか?」直属の上司に尋ねた(仮にTさんとしよう)。
するとTさんは「アイツは物覚えが悪すぎるんです。ついていけなかったんでしょう。アイツは正直この仕事に向いてないです」そう言った。
私はそんな理由はデタラメだと経営者に苦言を呈した。なぜなら、Tさんは誰に対しても「アイツはバカだ」「アホだ」「覚えが悪い」「この仕事に向いていない」と威圧的な言動をとって、新入社員をバンバン辞めさせていたからだ。
しかし経営者はTさんに信頼を置いている。入社して1年も経たない新入社員と、25年以上も会社の売上に貢献しているTさん、どちらを信用するかと言えば、もちろん後者だからだ。
しかし、私はある数値を経営者に提示した途端、経営者の表情が変わった。
その数値とは、Kさん(違う上司)の下についた新入社員(中途社員も含む)の離職率は0%、Tさんの下についた新入社員(中途採用も)の離職率はなんと100%だということだ。
そう、Tさんと一緒に仕事をすれば、必ず人が辞めていくという仕組みになっているのだ。
育たない理由を相手のせいにしていないか
Tさんの下につく従業員が辞めていく理由はもちろん1つだけではない。
嫌われやすい性格的な面など、いろんな要素はあるのだが、そもそも、育たない理由を、辞める理由を「相手のせいにしている」ということに尽きるのではないかと思う。
たとえば「もの覚えが悪い」ということは「教え方が悪い」という捉え方ができる。「向いていない」ということは「長所を活かせていない」という捉え方もできる。
つまりは「私は部下を育てる能力がありません」と、周りに露呈しているようなものである(現に社内外からそういうレッテルを貼られている)。
それを「相手のせい」にし続ける以上、矢印を自分ではなく相手に向けている以上、どんな優秀な人材を確保できたとしても材を腐らせてしまうだけだろう。
イノベーションのジレンマ
ひょっとしたら、あなたならイノベーションのジレンマという言葉を聞いたことがあるかもしれない。
イノベーションのジレンマというのは、簡単に言えば「今まで成功してやり方に固執してしまい、時代や環境の変化に対応しきれず会社が衰退してまう」という意味だ。
これは製品開発などで使われる言葉だが、人材育成においても当てはまるのではないだろうか?
あなたもご存知のように、現代の若者の価値観はずいぶんと変化している。そのような状況では、今までのやり方では通用しないというのもご存知だろう。
しかしながら、Tさんのように、今までのやり方、考え方に固執してしまい、環境の変化についていけない「人材イノベーションのジレンマ」に陥っている現場の育成者がとても多い。
人材育成は技術
もし、これから会社を成長させていきたいのなら、人を確保するノウハウ以上に、人を育てるという技術を習得する必要がある。
周りを見渡せば、人を育てるノウハウがある会社はやはり成長している。
常に「育てる」ということを意識している社員Kさんにおいても、その下についている若手社員の定着度だけでなく成長度も早い。
人を育てる技術を得るには、まずは教える側の意識改革が必要。経営者が意識改革をしても、現場で教える側の意識が変わらなければ何も変わらない。
そのためには「人を育てることが自分の仕事であり、任務だ」という自覚をさせることが必要ではないか。
「新入社員は足手まといだ」「つきっきりなると自分の仕事ができなくなる」「人を育てることは自分の仕事ではない」
そういった意識が、新入社員をはじめ若手人材をダメにしている根本的な原因だと思う。
人材育成は技術。技術が蓄積されればもちろん会社の資産になる。
だからこそ、今まで重要視して来なかった人を育てるというスキルを蓄積していく必要がある。
否が応でも人材育成に対する意識改革をすべき時がやってきている。これは大きな経営課題。
流れに身を任せ、何もしない、できない人、会社はもう衰退していくしかないだろう。