不動産を売るなら(買うなら)、できるだけ価値が高いほうが良いですよね?
いくら魅力のある物件だったとしても価値が下がってしまうようでは意味がありません。
その不動産の価値を下げしまう原因の1つに「瑕疵」というものがあります。
瑕疵とは簡単に言えば「通常あるべき品質や性能が欠けているもの」を指します。たとえば住宅なら「居住する」という目的ために、一般的に備わっている品質や性能が欠けている場合(たとえば雨漏りやシロアリの発生など)が、瑕疵に該当します。
そして不動産においては「5つの視点で瑕疵が定義」されています。
この5つの瑕疵があるかないかで、大きく不動産の価値は変わります。
ですから今回は、不動産の価値を下げてしまう「5つの瑕疵」について解説していきます。
法律的瑕疵
主な法律的瑕疵
「法的瑕疵」とは、法律に違反してしまっている状態の不動産や、自由な使用収益が阻害されてしまうような不動産を指します。たとえば、
- 建築基準法に違反している「違反建築物」
- 建物が建てられない・規制がかかるような土地(建築基準法・都市計画法)
- 消防法に満たしていない建物等
特に建築基準法違反の物件は、ローンの審査が降りないケースがあり、現金購入客のみが需要になります。ですから、その分市場価格が下落します。
不動産に係わる法律は多岐に渡りますが、法律的瑕疵になってしまう可能性があるのは「建築基準法」「都市計画法」「消防法」この3つが多いです。
見落とされがちな法的瑕疵
この中で、意外と見落とされがちなのが消防法です。
- 火災報知器、
- 消化設備(消化器・スプリンクラー)の設置の有無や、
- 避難ハシゴ、
- 排煙設備、
- ブロック塀や擁壁、看板や門、バルコニーやカーポートなど
これらが欠落している建物は意外と存在します。
特に事業用の建築物は注意が必要です。通常なら消防検査がありますが、対象外建物もあり、そのような建物は法的瑕疵に該当しやすくなります(個人的には、今のところ、あまり取引価格に影響を及ぼさないような気がします)。
他にも、工作物(看板や擁壁・ブロックなど)や昇降設備が違法状態になっているケースも見受けられます。
物理的瑕疵
「物理的瑕疵」は主に3つです。
建物の物理的瑕疵
物理的瑕疵の典型は、建物で言えば
- 「雨漏り」
- 「シロアリ」
- 「構造上の欠陥」
- 「耐震強度不足」
- 「床の傾き」など
が挙げられます。これら物理的瑕疵が存在していると、建物の使用をし続けることが困難です。建物の瑕疵の可能性の有無・定義については、国交省のガイドラインによることが一般的です。
土地の物理的瑕疵
土地については主に、
- 「土壌汚染」
- 「地中埋設物の存在」
- 「軟弱地盤」など
が挙げられます。これら土地の瑕疵は一定の調査をおこなわないと判明しないケースが一般的ですが、是正しようと思えば多大な費用を要することがほとんどです(建物も同じく費用がかかります)。
その他の物理的瑕疵
その他の物理的瑕疵として、設備の瑕疵や工作物の瑕疵が挙げられます。
たとえば経験したケースとしては、
- 排水管が接続されておらず、排水が床下に垂れ流しになっていたケース、
- 地盤の沈下の影響で排水設備が機能していないケース
- 擁壁がズレている・または膨れ上がっていたケース
などがあります。これを瑕疵と定義するかは微妙な面もありますが、瑕疵と判断される可能性があるので紹介しています。
その他にも、ブロック塀が傾いている場合も注意が必要です。このような土地と建物以外においても物理的瑕疵が発見される場合があります。
これら物理的瑕疵は経験上、法的要件を満たされず物理的瑕疵になっているケースが多いです。
環境的瑕疵
音、臭い、眺望、日照、嫌悪
「環境的瑕疵」とは「振動」や「騒音」「日照不足」や「眺望障害」「悪臭」などが挙げられます。
その他にも、近隣に「ごみ焼却場」や「廃棄物処理施設」「遊戯施設」等の施設があることで、環境上の問題となり得るような場合をいいます。
最近経験したケースとしては、
- 近隣に幼稚園があり「子供の声がうるさい」とトラブルになったケース、
- 葬儀場の建築計画、薬物依存症回復支援施設の建築計画で問題になったケース
などがあります。
他にも、近くに暴力団事務所がある場合や,暴力団組員が居住することによる迷惑行為がある場合にも環境瑕疵の1つとして挙げられます。
お隣さんが暴力団関係者で「夜中に暴れ回ってうるさくて眠れない」といったご相談を受けたこともあります。
捉え方は個人差がある
暴力団事務所や暴力団組員が住んでいる場合は、完全に瑕疵として定義する必要がありますが、振動や騒音、日照や悪臭などは個人差によるところがあります。
たとえば、物件の近くに電車が通っていて、電車の音が気にする人もいれば気にしない人がいるようにです。
このように環境的瑕疵として定義するかどうか疑われる場合は、何をもって瑕疵と定義するか、購入側は何を求めているのか、取引当事者と密にやりとりする必要があるでしょう。
環境基準値は自治体で確認
水質や大気汚染、土壌汚染などの環境公害は、環境的瑕疵か、それとも物理的瑕疵か、意見が分かれるところですが、公害があると分かれば、瑕疵に該当します。
環境基準の値は自治体によって設定されています。公害が疑われる場合は、調査をおこなう選択を検討しましょう。
心理的瑕疵
「心理的瑕疵」とは、対象不動産で「自殺」「他殺」「孤独死」「事故死」「火災」などが起きた場合です。
これら心理的瑕疵は不動産の価値が下がる代表例と言われています。
後ほど説明しますが、心理的瑕疵の問題点は、これら心理的瑕疵について、説明期間や説明範囲が決まっていないことです。
たとえば、
- 10年前に起きた自殺や他殺・火災は心理的瑕疵に該当するのか?(この場合は大抵該当します)
- では50年前はどうなのか?という判断、
- 孤独死の場合は、死亡してから何日経過した状態が心理的瑕疵なるのか?
- 不動産を売買する時や賃貸する時では違いがあるのか?
などです。
これらの基準が明確に示されていないところが厄介です。
契約上の瑕疵
最後の5つ目は「契約上の瑕疵」です。
契約上の瑕疵は「契約の目的や内容に適合しない契約」のことを指します。
これを「契約不適合」と呼び、2020年の民法改正後に新たに出てきた法律用語です。
契約不適合責任とは
契約不適合責任とは、
- 契約対象物(目的物)に対して、あらかじめ決められた、目的物の種類・用途・数量に対して契約内容に適合しない(契約内容と相違がある)場合に、
- 売主が買主対して法的負担(目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完、契約の解除、損害賠償など)をすることを言います。
たとえば、
- 居住目的で住宅を購入したが、居住できるような状態ではなかった。
- 店舗を建てる目的で土地を購入したが、店舗が建てられなかった。
- 100m2の土地として購入したが、実際は90m2しかなかった。
- 容積率160%地域で200%と説明を受けた。
- 道路幅が6Mと説明を受けたのに、実際は5.5Mしかなかった。
などが考えられます。
これらは契約上の瑕疵と推定され、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完、契約の解除、損害賠償などが発生する可能性があります。
項目 | 契約不適合(法改正後) | 瑕疵担保責任(法改正前) |
---|---|---|
追完請求 | 可能 | なし |
代金減額請求 | 可能 | 原則不可 |
損害賠償 | 可能(軽微な場合は不可) | 可能(信頼利益に限定) |
契約の解除 | 可能(契約不履行解除) | 可能(限定的) |
ということは「1.法律的瑕疵」「2.物理的瑕疵」「3.環境的瑕疵」「4.心理的瑕疵」の4つの瑕疵は、契約上の瑕疵(契約不適合)になり得るわけです。
契約不適合責任は、2020年に民法改正がされた「瑕疵担保責任」に替わるもの解釈されていますが、法的根拠が異なる点も見られ、瑕疵担保責任と同等に捉えるのは少し危険です。
たとえば民法改正前の「瑕疵担保責任」は「隠れた瑕疵」が要件でした。隠れた瑕疵とは、瑕疵の存在について善意無過失(知らなかった)状態です。
ですが、民法改正後の契約不適合責任は「隠れた瑕疵」は要求されません。隠れていても隠れていなくも瑕疵とされ、その瑕疵が契約に適合するかを問われる内容になっており、瑕疵担保責任契約とは性質が異なります。
項目 | 瑕疵担保責任(法改正前) | 契約不適合責任(法改正後) |
---|---|---|
責任の対象 | 隠れた瑕疵 | 契約に適合していない事実 |
買主が請求できる権利 | 損害賠償 契約解除 | 損害賠償 契約解除 追完(修補等) 代金減額 |
権利行使方法 | 瑕疵を知ってから1年以内に請求 | 不適合を知ってから1年以内に通知 |
時効 | 権利を行使できるようになってから10年 | 権利を行使できるようになってから10年 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき |
瑕疵は売主・貸主側の説明義務が伴う
瑕疵の存在が認められる場合や、瑕疵の存在が疑われる場合、売買契約・賃貸契約でしっかりと説明をおこないましょう。しっかりと説明し、相手に理解・承諾してもらわないと、後々大きなトラブルとなり、リスクを伴います。
そうならないためにも、3つのステップでリスクを回避します。
1.瑕疵を認識していれば必ず説明する
まずは「1.法律的瑕疵」「2.物理的瑕疵」「3.環境的瑕疵」「4.心理的瑕疵」の4つの瑕疵について、
- 売主・貸主側が認識している場合や、
- 売主・貸主側が認識していなくても、状況からみて誰でも認識できる場合、
買主・借主に対して告知・説明する義務が発生します。
2.瑕疵の可能性があるかもしれない事項を伝え相手に判断を委ねる
しかしながら、中古物件であれば、経験変化によって瑕疵が生じてしまう可能性もあり、瑕疵があるかどうか、くまなく調査することも実質上難しいでしょう。
そしてさらなる問題点は、これら瑕疵については定められた期間や範囲がなく、どこからどこまで説明義務を負う必要があるのか、曖昧な点です。
もちろん、現時点で瑕疵が発生しているもの(たとえば法律違反している、雨漏れや土壌汚染が確認されている等)は必ず説明する必要があります。
しかし、騒音や振動、眺望などは個人差がありますし、自殺や他殺が発生した不動産においては明確な指針がありません。
マンションであれば共用部分で起きた自殺や他殺も説明する義務があるのかも、現時点では決められていません。
最近、やっと国交省から心理的瑕疵(死の告知)に関するガイドラインが出されてきましたが、これも実は法的根拠はありません。
結論から言えば
- 裁判事例をもとに説明すべきか判断する
- 「これを言うと相手が嫌がるかな」「価格が下がるだろうな」ということは全て告知・説明する
- 買主・借主側で認識してもらったうえで取引の判断を委ねる
- 売主・貸主側で認識できるものはすべて告知し、その他の不安要素は、買手・借主側で調査を委ねる。
これらの視点と行動が必要です。このプロセスを吹っ飛ばして、
- 瑕疵を知っていて説明しなかった場合や、
- 瑕疵が疑われるのに調査・説明しなかった場合、
- 知らなくても簡単に知る得ることができる瑕疵の場合で、取引当事者に説明しなかった場合は、
契約不適合責任・不法行為で損害賠償の対象になる可能性があるので注意しましょう。
3.契約(特約)条項に細心の注意を払う
先ほどお伝えしたように、中古物件の場合、新築物件とは異なり「見えない瑕疵」「発見されにくい瑕疵」がつきものです。
瑕疵をすべて調べて是正し、売却すれば理想ですが、そんなことも現実的ではありません。
そこでもし、売買取引成立後に瑕疵が発見された場合でも、売主は責任を負わないという契約・特約をつけることができます。それが「契約不適合責任免責契約(特約)」と呼ばれるものです。
中には、とりあえず「契約不適合免責」の契約・特約をつけておけば問題ない!という不動産業者も存在しますが、この考え方は危険です。
- 瑕疵の存在を知っていたのに、それを伝えなかった。
- 調べれば容易に瑕疵の存在や可能性を知り得たのに放置した。
- 瑕疵の存在を知って相手方に説明しても契約内容に適合しなかった。
これらのケースは、いくら「契約不適合免責」の契約・特約をつけても、責任は免れません。
ですから最低限、
- 今認識している瑕疵や、調べれば容易に認識できる瑕疵は相手方に説明する。
- それを容認してもらうかどうかの判断を委ねる。
- 容認してもらえば、契約書でこれらは契約不適合に該当しないことを明記する(もし、隠れた瑕疵が存在した場合においても売主は契約不適合責任は負わないものであることも伝える)。
これらを契約に織り込んでおく必要があるでしょう。
これらを知らない不動産業者も多く存在しています。契約不適合責任の免責特約は必ず免責されるわけでないのです。どちらにしろ、売主側の負担が大きくなっていることは認識しておくべきしょう。
瑕疵が発生する主な3つの要因
外的要因
外的要因とは、たとえば「台風や地震などによって建物が傾いてしまった・雨漏れしてしまった」というケースや「建物内で自殺や殺人事件が発生してしまった」というケースなどが挙げられます。
他にも「近隣に引っ越してきた人は騒音や悪臭を出すようになった」というケースも考えられるでしょう。
どちらにせよ不可抗力によって瑕疵になってしまうケースがあります。
経年変化
経験変化とは時間と共に性能や品質が変化することを言います。瑕疵が発生するケースとして考えられることは
- 法律が変わってしまったために、現行法に適応しなくなってしまった
- 老朽化により雨漏れが発生し、放置したためにシロアリも発生した
- 周辺環境が変わってしまったために公害が発生してしまった
- 住人が高齢化し、孤独死してしまったetc
このようなケースが挙げられます。
悪意・無過失
悪意とは「知っていておこなった行為」を指します。
たとえば「違法だとわかっていて建物を建てて分譲した」「知っていながら手抜き工事をおこなった」「知っていて買手に告げずに契約した」などです。
このような悪意によって法律的瑕疵や物理的瑕疵・法律的瑕疵が発生します。
無過失とは「知らずにやってしまった行為」などです。「知らずに何かしらの行為をしたために違法になってしまった」「欠陥になるとは知らずに施工してしまった」「瑕疵があるとは知らずに契約をおこなった」などです。
悪意があるのか、無過失なのかは証明するのが難しい面もありますが、明らかな悪意が発見できる場合もあります。
まとめ
今回は、不動産の価値を下げる「5つの瑕疵」についてお伝えしました。
これらの瑕疵については物理的に是正できるもの(費用はかかる)と、物理的に是正できないもの(心理的瑕疵など)があります。
どちらにせよ、不動産の価値を下げてしまう要因となってしまうので不動産取引する際は留意しましょう。
中には「瑕疵の存在が見受けられるのに高く売り抜こう」という考えを持つ方も少なくありません。
ですがそのような考えはリスクが高く危険です。「売ったら終い」はもう過去の話です。
不動産に関する重要な事項の説明は、本来、不動産の所有者にあります(宅建業者はあくまで補助的な役割に過ぎません)。
後々トラブルになれば。不動産の所有者であるアナタに責任が及ぶのは言うまでもありません。
無論、環境的瑕疵や心理的瑕疵は防ぎようがありませんが、法的瑕疵や物理的瑕疵は是正や防ぐことは可能です。
日頃から不動産に愛着を持ち、メンテナンスを怠らないことも、不動産の価値を下げないために必要な考え方です。
5つの瑕疵一覧
瑕疵 | 主な発生要因 |
---|---|
1.法律的瑕疵 | 建築基準法・都市計画法・消防法等の違反etc |
2.物理的瑕疵 | シロアリ・雨漏れ・構造上の欠陥・土壌汚染・地中埋設物etc |
3.環境的瑕疵 | 振動・騒音・日照不足・眺望障害・悪臭等を発生させる原因 |
4.心理的瑕疵 | 自殺・他殺・孤独死・事故死etc |
5.契約上の瑕疵 | 契約不適合 |